イントロダクション

野田秀樹より

70分ほどの芝居である。けれども詰まっている。詰め込めるだけのものを詰め込んでいる作品だ。10秒に一度、何かが起こる。それがこの作品が持つ業である。人間が何かの弾みで、ひとたび堕ち始めると、あっという間に堕ちていく。それが、10秒に1度、堕ちていく姿だ。それは、海を越えて、いずこの国の観客にも届いた。だからこの作品は、ロンドン初演に始まり、東京、ニューヨーク、またロンドン、香港、また東京、エルサレム、ソウル、シビウ(ルーマニア)、またまた東京、大阪、北九州、松本、静岡、パリ、ルクセンブルク、レックリングハウゼン(ドイツ)そしてまたまた東京、大阪(しかも今回は全くの新キャストで)と旅をしている。これほどまでに、方々で観客に受け入れられた作品もない。そのはずである。これほど、時間とリスクをかけて創ったものはない。これほど幾度も幾度も、ロンドン-東京を行ったり来たりしながら創った作品はない。そして、これほど観客の想像力って、凄いんだ、ゴメンナサイ、みくびってました。と思わされた作品もない。だって(舞台の)そこに目の前にあるのは、十本の鉛筆だ。その鉛筆を…あっ!これ以上は言えない、言うまい。劇場で初めて見るお客様のために。てなわけで、やっぱり芝居は劇場で!生で!でなけりゃ伝わらない。これは典型的に、そんな芝居です。そんな芝居です。だって、鉛筆が…。 野田秀樹

10秒に一度何かが起こる…ユーモアと戦慄の75分!!演劇史に燦然と輝く傑作にして、野田秀樹 最大の衝撃作。新キャストを迎え、9年ぶりの日本上演決定!!

今年5月から7月、『フェイクスピア』で圧巻の演劇体験を観客に届けたNODA・MAPが、この秋、早くも番外公演『THE BEE』を引っ提げて劇場に再臨する!!
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件に触発された、野田秀樹が、筒井康隆の小説『毟りあい』を題材に、ロンドンで現地演劇人とワークショップを積み重ね、書き下ろした英語戯曲『THE BEE』。
初演は2006年のロンドン。2007年には東京で日本語版が初演され、これまでにNY、香港、エルサレム、パリなど10カ国14都市で上演、各地で称賛されてきた『THE BEE』が、新キャストを迎えて2021年秋、日本に帰還する。

阿部サダヲ
野田秀樹が演じた[井戸]、その後継者

2012年の『THE BEE』松本公演に衝撃を受けた阿部サダヲは、「いつかこの役をやりたい」と思っていた。一方、野田も「次に上演するなら阿部サダヲで」と考えていた。そんな両者の思いが今回実現。繊細かつ豊かな身体性を誇る演技で観客を魅了する阿部サダヲは狂気に駆られていく平凡なサラリーマン[井戸]をどう演じるのか?

長澤まさみ
NODA・MAP初参加。ストリップダンサー[小古呂(おごろ)の妻]に挑む

映画、テレビドラマ、CMと八面六臂はちめんろっぴの活躍を見せ、近年は数々の舞台でも体当たりの演技を見せる長澤まさみが、遂にNODA・MAPに初出演。演じるのは[リポーター]役とストリップダンサー[小古呂の妻]役。阿部演じる[井戸]と対峙する“脱獄囚の妻”であり、“脱獄囚の息子の母親”でもある彼女の妖艶な変容の行方は観客の目を釘付けにするはずだ。

河内大和
抜群の身体能力と独特の存在感

河内大和にも注目だ。近年のNODA・MAP『エッグ』、『MIWA』、『「Q」:A Night At The Kabuki』では抜擢の身体能力で個性的なアンサンブルを担ってきた河内。昨年の東京芸術劇場主催「東京演劇道場」公演『赤鬼』では客演として野田から主要キャスト・ミズカネ役を任され、独自の存在感を観客に印象付けた。今回、『THE BEE』で演じるのは横柄な権力を振りかざす[百百山どどやま警部]と、スキャンダルを消費するように群がるマスコミのリポーター役など。類稀なる存在感は新生『THE BEE』でどのように発揮されるのか?

川平慈英
脱獄囚、6歳児、警官など複数の役が瞬時にスイッチ

さらにサプライズは川平慈英。NODA・MAP初参加となった『フェイクスピア』における鮮烈にしてポジティブな存在感も記憶に新しい川平が異例の連続登板を果たす。野田が全幅の信頼を寄せるその強力なインパクトを誇る声と肉体から演じられる下卑げびた警官[安直あんちょく]、犯人の[小古呂おごろ]、そして6歳児[小古呂の息子]、[リポーター]と目まぐるしく演じられる四役はいかに!?

阿部サダヲ、長澤まさみ、河内大和、川平慈英。
いずれ劣らぬ実力派4人のユーモアとスピード感に溢れるアンサンブルワークに期待が高まる。

野田秀樹、NODA・MAP初の演出専念!

無論、演出は野田秀樹。2006年のロンドン初演以来、様々なユーモアと観客の度肝を抜くアイデアに満ちた『THE BEE』で演出・出演([井戸]、[小古呂の妻])の両面から「生の演劇の力」を提示し続けてきた野田が、今回はその経験を総動員してNODA・MAP作品としては初めて演出に専念する。

幾つもの役をスイッチする4人の役者たちのスリリングな演技。“鉛筆”をはじめとする小道具ひとつひとつの“見立て”によって過剰なまでに刺激される観客の想像力。まさに「10秒に一度、何かが起こる」(野田)。劇場における“生の舞台”ならではの緊張と興奮が詰まった新生『THE BEE』が、未だ混沌の只中にある2021年の日本に一針を刺す。

NODA・MAP番外公演『THE BEE』、是非ともご注目ください!

「THE BEE」ロンドン初演(2006) 撮影:Keith Pattison

ABOUT『THE BEE』

『THE BEE』は、2003年に野田秀樹が英国で現地の俳優たちと始めたワークショップから誕生した。奇しくも2003年は、9.11同時多発テロ事件への報復としてイラク戦争が勃発した年でもあり、野田はワークショップの題材に筒井康隆の短編小説『むしりあい』を選んだ。以降、日本と英国を何度も行き来し、時間をかけてワークショップを積み重ねていく。同時に野田は戯曲を最初からすべて英語で執筆をしようと試み、シチュエーションやセリフのニュアンスがどのようにしたら伝わるのか、西洋の文化的な解釈の細かな検証を、キャサリン・ハンターら英国人俳優達や、作家コリン・ティーバン(共同脚本)と作業を重ねながら創作していった。かくして誕生した『THE BEE』は2006年にロンドンのソーホーシアターで初演、絶賛される。当時、日本国内ではすでに演劇人として高い評価を獲得していた野田が英国でゼロから作品を立ち上げ、戯曲を英語で書き、ロンドンで初演した。この挑戦は観客のみならず、後に続く日本の多くの演劇人に強く衝撃を与えたのだった。

ロンドン初演で高い評価を受けた『THE BEE』は、2007年の東京公演で英語版と日本語版を同時上演。英語版で脱獄囚の妻役を演じた野田は、日本版ではサラリーマン[井戸]を演じ、俳優・野田秀樹の存在感をも強く印象付け、その年の演劇賞を数多く受賞。演劇界に一大センセーションを起こした。
2012年の日本語版再演ではキャストを変え、英語版と共にワールドツアー&ジャパンツアーを敢行。
その後、2013年・2014年と連続でワールドツアーを実施し、『THE BEE』は日本を含む世界10カ国14都市を飛び回った。

『THE BEE』で世界を巡る中、海外の劇場や演劇人から野田作品への関心も高まり、『ザ・ダイバー』(2008年ロンドン初演)を筆頭に、『One Green Bottle』(2017年東京・ソウル/2018年ロンドン・シビウ/2020年台北・NY)、さらには大規模作品『エッグ』(2015年パリ)や『贋作 桜の森の満開の下』(2018年パリ)など、野田秀樹の精力的な海外公演進出へと繋がった。

「THE BEE」日本バージョン 東京公演(2007) 撮影:谷古宇正彦

過去の劇評より

  • “短いが、シャープでショッキングな作品。蜂のようにソーホーシアターへ直行せよ!” The Daily Telegraph誌/2006年ロンドン初演

  • ““極めて並外れた傑作”” ★★★★ Time Out誌/2006年ロンドン初演

  • “ありふれた物体を独創的に使いこなし、無邪気さと禍々しさ、美と暴虐が交錯する世界を創り出す。野田の演出は秀逸。” ★★★★★ Financial Times誌/2006年ロンドン初演

  • “日本の演劇史に残る事件。年齢を重ねるごとに、むしろ作風を先鋭化させていくのは、まさしく天才の証左。 読売新聞/2007年東京初演”

受賞歴

第42回紀伊國屋演劇賞(2007年)
団体賞受賞:NODA・MAP(『THE BEE』『キル』)
第7回朝日舞台芸術賞(2007年)
グランプリ受賞:『THE BEE』日本バージョン・ロンドンバージョン
舞台芸術賞受賞:堀尾幸男(『THE BEE』日本バージョンほか)
第49回毎日芸術賞(2007年度)
演劇部門受賞:野田秀樹(『THE BEE』日本・ロンドンバージョン)
第15回読売演劇大賞(2008年)
大賞・最優秀作品賞受賞:『THE BEE』日本バージョン・ロンドンバージョン
最優秀演出家賞受賞:野田秀樹
最優秀男優賞受賞:野田秀樹

上演記録

2006.6.21〜7.15 NODA・MAP/SOHO THEATRE presents「THE BEE」【初演】
[英語上演] ロンドン・SOHO THEATRE
キャサリン・ハンター 野田秀樹 グリン・プリチャード トニー・ベル
井戸 小古呂の妻/
リポーター
安直/小古呂/
小古呂の息子/
リポーター
百百山警部/シェフ/
リポーター
2007.6.22〜7.29 NODA・MAP番外公演「THE BEE」
[日本語上演] 2007.6.22〜7.9 東京・シアタートラム
野田秀樹 秋山菜津子 近藤良平 浅野和之
井戸 小古呂の妻/
リポーター
安直/小古呂/
小古呂の息子/
リポーター
百百山警部/シェフ/
リポーター
[英語上演] 2007.7.12~7.29 東京・シアタートラム
キャサリン・ハンター 野田秀樹 グリン・プリチャード トニー・ベル
井戸 小古呂の妻/
リポーター
安直/小古呂/
小古呂の息子/
リポーター
百百山警部/シェフ/
リポーター
2012.1.5〜3.11 「THE BEE」ワールドツアー
[英語上演] NY・Japan Society(Under The Radar Festival正式招待)→ロンドン・SOHO THEATRE→香港・HK Cultural Centre(Hong Kong Arts Festival正式招待)→東京・水天宮ピット大スタジオ
キャサリン・ハンター 野田秀樹 グリン・プリチャード クライブ・メンダス(NY/ロンドン) マルチェロ・マー二(香港/東京)
井戸 小古呂の妻/
リポーター
安直/小古呂/
小古呂の息子/
リポーター
百百山警部/シェフ/
リポーター
2012.4.25〜6.24 NODA・MAP番外公演「THE BEE」ジャパンツアー
[日本語上演] 東京・水天宮ピット大スタジオ→大阪・大阪ビジネスパーク円形ホール→北九州・北九州芸術劇場 中劇場→松本・まつもと市民芸術館 実験劇場→静岡・静岡芸術劇場(ふじのくに⇄せかい演劇祭2012正式招待)
宮沢りえ 池田成志 近藤良平 野田秀樹
小古呂の妻/
リポーター
百百山警部/シェフ/
リポーター
安直/小古呂/
小古呂の息子/
リポーター
井戸
2013.5.31〜6.16 「THE BEE」ワールドツアー2013
[英語上演] エルサレム・Rebecca Crown Hall(イスラエル・フェスティバル正式招待)→ソウル・明洞芸術劇場→シビウ・National Theatre Radu Stanca(ルーマニア・シビウ国際演劇祭正式招待)
キャサリン・ハンター 野田秀樹 グリン・プリチャード マルチェロ・マー二
井戸 小古呂の妻/
リポーター
安直/小古呂/
小古呂の息子/
リポーター
百百山警部/シェフ/
リポーター
2014.5.13~6.4 「THE BEE」ワールドツアー2014
[英語上演] パリ・国立シャイヨー劇場→ルクセンブルク・ルクセンブルク市立劇場→レックリングハウゼン(ドイツ)・ルール演劇祭
野田秀樹 グリン・プリチャード デヴィッド・チャールズ ペトラ・マッシー
井戸 安直/小古呂/
小古呂の息子/
リポーター
百百山警部/シェフ/
リポーター
小古呂の妻/
リポーター
「THE BEE」日本バージョン 東京公演(2012) 撮影:谷古宇正彦