2000年秋、野田秀樹が20世紀最後の書き下ろしを発表!
濃密な劇空間が魅力の番外公演第4弾「農 業 少 女」
NODA・MAP番外公演第4弾「農業少女」
「パンドラの鐘」、「カノン」と昨年末より立て続けに新作に取り組み、世紀末の演劇界の注目を一身に集めている野田秀樹。その新作の舞台となる公演は、NODA・MAPの中でも人気が高い「番外公演」です。
これは、95年、橋爪功氏との二人芝居「し」からスタートした特別企画で、息づかいも聞こえるような小空間で、少人数の出演者が、臨場感溢れる劇空間を創り上げることで人気を集め、毎回熾烈なチケット争奪戦が繰り広げられるファン待望の公演です。
前出作以来、タイでも上演された「赤鬼」(96年)、野田の右目失明の事実を戯曲化した「Right Eye」等本公演とは趣の違う濃密な劇空間の中で、上演の度に演劇ファンに衝撃を与えてきた作品を生み出してきました。今回で4弾になる番外公演の出演は、野田作品3作目の登場にして初めての書き下ろし作に挑む深津絵里、「パンドラの鐘」で野田と絶妙コンビぶりを見せた、大人計画の鬼才・松尾スズキ、小劇場界より羽ばたき、宮本亜門演出作等の話題作出演が続く明星真由美、そして野田本人を含めた4人芝居です。
この3人の才能の力を得て、野田秀樹がどのような「言葉」を、20世紀最後の作品として残そうとしているのか、期待が膨らみます。
◆ものがたり◆
日本のとある田舎、農業という名の駅があった。その駅のホームには、いつ立てられたとも知れぬ、由美かおるの 全身でいっぱいの金鳥の夏の看板があった。この村には、そんな看板が一杯あった。
大村昆のオロナミンC、誰だか知らない和服の女のボンカレー、どれもこれも、その製品は今でも売られているけれど、そんなコマーシャルはもうない。看板は錆びている。
ブリキに描かれたその絵は剥がれかかっている。その看板の足元に雑草が生えて駅のホームとの境を曖昧に している。
そして、その看板の傍らのベンチに一人の少女が座っていた。どこにでもある日本の田園の、長閑と言えば長閑、 退屈と言えば退屈、さして美しくもないその田園の景色を 目の当たりに、彼女は思った。
「このまま東京に行ってみようかな。
のうぎょう、とうきょう、
そんなにコトバの響きは変わらないのに、
東京は農業から遠い。」
そう思いながら東京行きの切符を手にいれた少女と共に、20世紀に置き忘れようとしている、日本人の本音を書いて みようと思う。
野田秀樹