「死骸をひきとりにいくのさ」「だれの」「おめえのよ」「なんぼなんでも、これがあたしの死骸ですなんて、じぶんでいくのはどうもきまりがわるくって」
(落語「そこつ長屋」より)
亀井がのどをひゅうひゅういわせながらおれの前を走っていた。「いやだ」「どうしてこうなる」時には行く手の曲がりかどの、眼に見えぬ路地の暗闇の底から、どんどんどんどんという鈍い足音と、それに伴う地ひびきが近づいてくることを知り、おれと亀井はしっかり抱きあった。
(筒井康隆「走る取的」より)
「いえね、伊勢屋の旦那なんですがね、また死んじまったんですよ」「なんだい、また、ってえのは」「へえ、三度目なんで」
(落語「短命」より)
大納言は息が切れ、はりさけそうな苦痛のうちに、天女のししあいを思っていた。しびれるようなあやしさが、再び彼のすべてをさらった。官能は燃え、からだは狂気の焔であった。
(坂口安吾「紫大納言」より)
以上のように、この作品は、行き倒れになった自分の死体を引き取りに行く男の不条理、偶然出くわした相撲取りに、執拗につきまとわれる男たちの恐怖、三度続けて亭主を早死にさせた美貌の未亡人の謎、この世ならぬ美しさの天女との遭遇を契機に、生まれてはじめて意のままにならぬ愛の行方に身を焦がす男の破滅、等々、死、妄想、ナンセンス、逸脱した熱狂などをモチーフに、戯曲以外の様々なテキストによって編まれた、アンソロジー劇として構成されています。